月夜見

   “ひまわり ひまわる”  〜月夜に躍る]]


そもそもの元々は、物流の一大中継地。
世界中の物流になくてはならない拠点となること、
イマドキ流に言やぁ“車軸
(ハブ)”を目指して開かれた港町であったのが。
ちょっとした時流の弾みから、
観光地としての発展も見えだしたものだから。
ただただ稼働率や効率だけ満たしておればいいのだと、
様々な部分が飾りっけのない、
どれほどお世辞を並べても
およそ品があるとは思えぬ土地だったものが。
冒険心を抱えた女性客が、
最初はこそこそ、やがては大挙して繰り出して来る時勢に合わせ。
これじゃあいけないという、克己の心から…と言うよりも、
そっちの方向でも金になる町になりそうだと、気づいた顔触れから順に、

  衣食足りて礼節を知る、

なんていう微妙な理
(ことわ)りを引っ張り出して、
十分に財力をつけ、世界へその名を知らしめたその次は、
人間性の豊かさ、文化面の向上を目標に、
治安のいい町、安全で清潔な町に生まれ変わらねば、
………とか何とかいう建前の下。
何故だかお運びくださる各界の有閑夫人らに、
持て余している時間と金を、当地で使わせるにはどうすりゃいいものか。
それはそれは判りやすい指針でもって、
あちこち綺麗に体裁を整え始めた町は、だが、
そんな成長と共に、
莫大な財が動くインフラ関係の汚職だ何だも勃発。
金融関係業の無理強いや強引な仕事も苛烈を極め、
要領のいい奴が越え太ると、それとの相殺のように、
貧しい者や弱い者へのしわ寄せも少なくはなくなり。
そういう構図がどんな時代でも変わらない、
あまりの芸のなさへと業を煮やしたからなのか。
見せかけだけの華やかさや躍動に、こっそり踏みにじられそうな人々を、
そうは問屋が卸しませんと、
腹の皮も面の皮も ど厚い連中に、
ささやかな鉄槌食らわす、凄腕の義賊が登場したのもそんな頃。
表向きには爽やかなCMで“資金援助致します”と言っておきながら、
子会社に悪辣な“貸しはがし”を辞めさせなかった某都市バンクの、
オーナー一族がこそりと蓄えていた隠し金を、
二重帳簿ごと発掘して差し上げたり。
役所の担当窓口と結託し、不正な認可を取りまくり、
土地の買い叩きや強引な地上げを繰り返していた連中へは。
彼らが資金を提供していた政治家もろとも、
破廉恥なパーティーで札束吹雪を撒いてたところ、実況中継して差し上げて、
結果、この町どころか国内にも、いられなくして差し上げたこともあったりしで。

 “……いや、そっちは知らんのだがな。”

あんの出しゃばり女め、
脱出のおり、手が塞がってしまうのでしょう?
だったら、そのペンライトは
使い捨てにしていいから…なんて、
恩着せがましい言いようをしたそのライトへ、
実はマイクロカメラを装着してたなんて 俺りゃ聞いてねぇと。
たま〜に、第三者の思惑に躍らされてるときもあったらしいが、
まま、それはともかく。
(こらこら)

 どんな堅牢な金庫も警備も物ともしない、
 どんな権力にも怯まない。

  その名も、怪盗“大剣豪”

そんな義賊が徘徊するよになってから、
少なくとも、
観光客への見栄えだけ良けりゃあいいという、
身内をないがしろにするにも程がある困った風潮も、
ほんの1年ほどで なりを潜めてしまったというから。

 “…どんだけ山師ばっかが集まってた町なんだ、おい。”

ホンマやねぇ。
(苦笑)





      ◇◇◇



あんまり久し振りすぎたので、ちょっとしたお浚いをさせていただきましたが。
世間様からは“義賊”と持て囃されているものの、
その素顔はといや、随分と“案外”とか“意外”づくめの男だったりし。
たった一人で、屈強な警備員らや警察の大軍勢を向こうに回し、
時には 半分私兵で固められた港湾機動まで引っ張り回しての、
かつてない大騒動を引き起こして来た男、にしては。

  老獪そうでもなきゃあ、狡猾そうでもない、
  どこにでもいる青二才…にしか見えぬ若造で

確かに、よくよく鍛えた肢体は半端なそれじゃあなく、
膂力も凄まじきゃあ、瞬発力も人並み外れたそれであり。
何かしら目立つような重機を乗り回したり、
途轍もない威力のある兵器を担いで現れるような、
そういった周到さもなくの。
信じられないほどあっけらかんとした単独行にて、
目的の盗みを手掛け、とっとと撤退してくだけ。
本人がやってることは、ただの盗みに他ならず。

  ただまあ

そのついでとか、弾みとか。
目的のブツの手前にあって邪魔だった帳簿だとかを、
逃走の途中でお荷物だからとポイ捨てしたり。
金庫を開けるのに必要な社長の声を録音したのが、
たまたま、妙な顔合わせで密会していた談合の場だったらしいが、
そこまで知ったこっちゃあないとばかり、
用済みのテープをやっぱりポイ捨てしてきた行儀の悪さが、
世間を別な方向で騒がせて来ただけのこと。

 「よく言うわよね。確信犯的なのも たんとあったんでしょうに。」
 「あれですよ、
  ホントは義侠心ってのが捨てられない、
  ケツの青いガキだってこと、
  ついつい隠し切れなくてやっちまったあれこれなんですよ。」

指定席になっているカウンターにて、
遅いめの朝食を黙々と片付けている誰かさんへ、
それこそ聞こえているのは百も承知で、聞こえよがしに会話を交わしているのは、
当店のオーナーシェフと、この町じゃあ情報屋として知られたとある美人と。
彼の正体を知る、数少ない仲間内であり、
だからこその辛辣さでこき下ろすのはいつものことだが、

 「しかもその上、要らない怪我してくれちゃうし。」

それこそを言いたいのだということか、
強いめの語調になったナミだったのへは、
さすがにムカァッと来たのだろう。
少々行儀悪くもナポリタンを掻き込んでいた手を止めると、

 「あんなもんは掠り傷もいいとこだろうがっ。
  大体、何でまたそんな些細なことへまで、
  お前らに気ぃ遣わにゃならんっ!」

があっと吠えた怪盗“剣豪”さんは、その本名をロロノア=ゾロといい、
日頃の昼日中はといや、
特に定職もないままブラブラしている若い衆を装っているのだが、
ただの泥棒じゃあなく“怪盗”と呼ばれているスマートな仕事っぷりの割に、
日頃のお顔はといえば、
所謂“クール”とやらからは、かなりのところ ほど遠かったりもしておいで。
夏場は似たようなTシャツにGパンという、
自分の身なりを一切構わぬ、
着たきりスズメっぽいもっさりとしたいで立ちといい。
何かしらへ精出しているところをとんと見ない、
非アクティブなところといい、

 「おっさんみたいななりのまま、
  いっそ大人しくしていてくれりゃあいいものを。」

全国のおっさん世代の方々 すいません…じゃあなくて。
(お〜い)
結構本気っぽい迫力が込められていた怒号へも、さして動じないお姉様。
カウンターに頬杖をついたまま、やれやれと肩をすくめたナミが、
彼女の方こそ随分と威嚇的に目許を眇めて見せて続けたのが、

 「掠り傷なのは結構だけれど、
  それを負ったことが大層な広まり方をしちゃっててどうすんの。」

 「う………。」

何だかなかなかお話の要点が見えて来ないのではありますが、
どうやら何かしらの負い目らしきもの、こさえてしまった怪盗様であるらしく。
こんの女子供が…という侮蔑的な言い方こそしないものの、
それでも微妙に“女というものは”と区別する傾向が強いこの怪盗様が、
それとは別な意味合いから苦手とするこちらのお姉様から、
ぽんぽんと言い込められるのはいつものこと。
言ってる事へも逆らえないのか、
余裕で一回りは大きなガタイをした男衆のくせして、
威勢に負けて うううとたじろいでしまったところへと、

 「何だなんだ、また喧嘩かよ。」

準備中のプレートが提げられたドアを押し開け、
表から飛び込んで来た人物のお声がなかったならば、
そのままスツールから落っこちてたかも知れないゾロを救ったのは、

 「おや、ルフィ。」
 「あら、お帰りなさい。」

かすかに聞こえた蝉の声と共に、
それは明るい真昼のお外から帰宅した、
こちら“バラティエ”のオーナーシェフの弟君で。
ナップザック型のビニールバッグを肩へと引っかけているのは、
市街地の外れにある市民プールへ行って来たから。

 「混んでなかったか、プール。」
 「混んでた混んでた。
  流れるプールなんて、全然流れてねぇし、
  泳ぐと危ねぇから滅多に動くなだってよ。」
 「…何だそりゃ。」

冗談のようだがホントの話で、
ああいうのを“芋の子洗い”っていうんだろ?と、
無邪気に訊いてくる弟さんとのお喋りのほうへと関心が移ったか、
それまで吊るし上げられていた誰かさんには声も振られぬようになったほど。
つまりはその程度の関心であり、
体のいい暇つぶしの対象にされていただけで、
そこから解放されたとあって、
やれやれとこっそり安堵の息をついたゾロである。




     ◇◇


これでも込み合わない時間帯を狙って午前中に出掛けたというルフィ坊ちゃんが、
混んで来たからと戻って来たのが、ちょうど正午という頃合いで。
こちらさんも、サンジ特製のお昼ご飯を食べてから、
じゃあ家へ帰っとくからと“バラティエ”を後にする。
示し合わせた訳じゃあなかったが、
ゾロが席を立ったのを見計らってのことであり、

 「なあなあ、今日は何か予定とかあんのか?」
 「ねぇよ。」

ついのこととて乱暴な口利きになったが、
いつもの話だから特にめげるルフィでもない。
ましてや、ナミやサンジに言い負かされてたところも見ていたので、
その八つ当たりも多少はあろうというのも織り込み済み。

 「そっか、やっぱり傷が治るまでは仕事も休みか。」
 「〜〜〜〜。」

蒸し返されたような気がしたか、
ゾロのいかついお顔の雄々しい眉がぐぐっと寄った。
さっきから怪我だの傷だのと言ってるそれだが、
単独にて数々の伝説作ってる怪盗“大剣豪”殿が、
そうそう滅多なことで怪我なぞ負うはずもなく。
だってのに…いや、だからこそ?
いちいち引き合いに出されているのが、

 「ゾロってさ、
  一銭にもならん人助けなんて出来るか…なんて、
  ナミみたいなこと言ってる割に、
  意外なことで飛び出して手助けしてたりするんだもんね。」

 「〜〜〜。」
 「しかも、小さな猫までも。」
 「〜〜〜〜〜。」

何にか驚いて駆け登ったらしい街路樹から、降りられなくなった仔猫。
あまりに子供で、頼りないお声で鳴くものの、
その樹がまた、梢の細いケヤキだったので、
大人が登っても消防署のハシゴ車でも、
天辺までは辿り着けないと来て、
これは身の軽い子供に頼むか、いやそれは危なかろうと、
二進も三進も行かなくなったところへと。

  ひょいっと

一番間近だったビルの屋上から、ぽ〜んと飛んで来たのが鈎つきのロープで。
ロープがからんだのは隣りの樹。
それから、
余程のこと間合いを取るのが上手いものか、
小柄とは言えない体格の男性が、それでも、
そのロープへ絶妙に体重を預けてのぶんと振り子のように飛び降りてくると、
通り過ぎざまという手際のよさで、
仔猫を鮮やかに掻っ攫って地上までを降りて来た。
何とも鮮やかな英雄譚であり、
そのまま仔猫は地上へ置いてとっとと去れれば見事な一幕となったのだが、

 『みぎゃあぁっ!』

緊張が解けたと同時、
恐慌状態を一番間近な存在へとぶつけて来た仔猫から、
抱えていたその手をざっくりと引っ掻かれ、
『大丈夫ですか?』と、
周囲に集まってた人々からいたわられるという、
余計なおまけがついちゃったのが数日ほど前のこと。
幸い、詰め掛けていた人々の中には、
マスコミ関係の人はいなかったようだけれど。
携帯の写メを撮ろうとしていた気配があったので、
慌てて逃げ出した剣豪様。
夕刊なぞにも数紙が小さな事件として取り上げてはいたが、
写真の掲載まではなかったので、
姿を写された恐れはなかったらしいが、とはいえ、

 『傷が出来たことは何人もの人が見たワケよねぇ。』

万が一にも、出先での取っ組み合い何ぞでそれが露見し、
身元を辿るヒントにでもされては剣呑だからと、
ナミとサンジから、
当分は盗み(サルベージ)の仕事もお休みだと
言い渡されてしまっており。

 「善いことしたのに叱られてちゃあ、
  たまったもんじゃねぇよな。」
 「〜〜〜。」

うくくと楽しげに笑って、
肘でこっちの腕をつんつんとつついてくる坊やの言いようへ、
ますますのこと渋面を作るゾロではあったが、

 「……で、お前は何でまたついて来てるんだ。」
 「俺も見張りだ。」

胸を張るところが勇ましい。
普通に歩いてたって、事情を知ってる人には顔が指してて、
ほらあの人、なんて言われてる身だから、
成程、ややこしい現場でその傷を見られちゃあ、
身元を辿る鍵にもなろうが、

 「仕事はしねぇと…。」
 「ゾロは、仔猫でも助けっちまうじゃんか。」

皆まで言わすかと、おっかぶせるように言ってのけると、
ちょこまか先へと回って振り向いて、

 「それでなくとも顔が指すのにさ、
  これ以上、あちこちに縁を作ってどうすんだ。」
 「縁って…。」

別に顔見知りを作って回ってるワケじゃねぇわいと、
口許歪めたお兄さんだったけれど、
むむうと上目遣いに見上げてくる坊やには弱いか、

 「………判ったよ。大人しくしててやんよ。」
 「やたっ!」

じゃあじゃあ、今夜の花火大会、一緒に行こうな?
それと、あしたの日曜の縁日もな?
途端に、屈託なく笑った坊やだったのへ、

 「…お、おう。」

不機嫌だった剣豪殿の、腹の重しがあっと言う間に氷解し、
そういや、もう真夏の陽気だったんだなと、
今頃になって背中にじんわりとした汗を感じている困ったお人。
鍛えているから平気な誰かさんとは違って、
まだまだ無邪気なお子様だからか。
真夏の猛暑も何のその、
ヒマワリみたいに笑った坊やへ、
しっかりとあてられたお兄さんだったらしく。

  それって、
  どっかの実のお兄さんには内緒にしとくようにね。
(苦笑)






  〜Fine〜  10.08.08.


  *何だか本誌がえらい運びになってるそうで。
   そうか、インペルダウンが、
   ルフィの17歳最後の活劇の場となるってのは
   こういう意味か…という。
   じゃむぷ読んでなくとも目に入る情報が多々あって、
   皆さんも やっぱ、混乱しますよねぇ。

   (ちょこっとネタバレなので反転しますね。)

   レイリーさんがまだ退場なさらないのなら、
   それはすっごい嬉しい話ですが。
   厳しい展開はまだまだ続くのだろうか。
   ルフィにとっての“宝”である仲間たちと、
   早く再会してほしいのに、それを引き伸ばさざるを得ないなんて。
   この状況下では、
   海軍からの探査から逃れるという意味からも、
   先のことを考えてのスキルアップを考えてという意味合いからも、
   性急にならないで入念な修行に入るのもまた策ではありましょうが。
   ドラゴンボールが ドラゴンボールZになった折のような、
   そんな様変わりはちょっとイヤかも……。
   (ex, ルフィが少しお兄さんになってたりとか、
      サンジがロン毛になってたりとか…。)
おいおい

  *ウチの公式にあたるアニワンは、
   関西でもやっとOPが変わったところ。
   あああ、先は長いなぁ。
   まあ、そう簡単に追いついてちゃいかんのでしょうが。
   楽しいとか溌剌とした展開じゃないところへの進行なので、
   気が重いったらありゃしませんで。
   早いとこルフィや仲間たちの笑顔が見たいもんですね。

   あ。
   ウチは相変わらずの内容とペースでやってきますので、
   (ペースと言っても、更新速度はかなり落ちましたが…。)
とほほ
   それでご容赦くださいませです。

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

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